兼子 歩
私はアメリカ合衆国の歴史、特にジェンダー・セクシュアリティ・人種をめぐる問題を専門としており、近年では第二次世界大戦直後の同性愛者による権利運動の歴史研究を進めています。授業ではアフリカ系アメリカ人やLGBTQ+などマイノリティ集団の経験を軸にしてアメリカの歴史と現在を講じます。
歴史学は単に過去について知るだけでなく、過去を知ることを通じて現在を相対化する視点を養う学問です。マイノリティへの差別や抑圧や周縁化、そしてそれらを生み出してきた人種・民族・ジェンダー・性的指向・性自認・年齢・障がいといった人間分類の仕方それ自体にも、歴史があります。私たちが自明視する認識や価値観が歴史のある時点で創り出されてきた過程を知ることは、現在の価値観を当然視する思い込みから私たちを自由にしてくれます。
私自身は日本社会でマジョリティに属する存在ですが、こうした歴史を学ぶことを通じて、自己のマジョリティとしての歴史的な特権性について知ることとなりました。それは、人間を自由にするという、リベラルアーツの学びの原点のような経験でした。そうした学びは、真に包摂的(インクルーシブ)な社会を構想するための前提条件です。私の授業は、全ての人が未来を創る自由の可能性を見出すための学びの機会となる授業を目指しています。
【2004年北海道大学大学院文学研究科博士後期課程単位習得退学。文学修士。共著に『「ヘイト」に抗するアメリカ史』(彩流社、2022年)、共訳書に『クィアなアメリカ史』(勁草書房、2023年)、『アメリカ黒人女性史』(勁草書房、2022年)など】